桑名・熱田・名護屋
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桑名本統寺にて
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
草の枕に寝あきて、まだほのぐらきうちに、浜のかたに出て、
明ぼのやしら魚しろきこと一寸
現代語訳
桑名本統寺にて
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
雪の中に牡丹が咲き千鳥が鳴く。千鳥はさながら冬のほととぎすといったところか。
旅寝することにも飽きてきたので、まだほの暗いうちに浜の方へ出て
明ぼのやしら魚しろきこと一寸
ほのぼのと明け行く海岸の風景。その中に、一寸ほどの大きさの白魚が打ち上げられているのが浮かび上がって見える。
語句
◆桑名…揖斐川(いびがわ)河口に開けた城下町。現三重県北部。東海道の宿場があった。◆桑名本統寺…東本願寺の別院。芭蕉が訪れた時の住職は大谷琢恵(俳号古益)。北村季吟派。 ◆「冬牡丹~」…「冬牡丹」は冬に咲く牡丹。本来牡丹の季節ではないのに牡丹が見れた所に感動がある。それを本来夏のものであるほととぎすのイメージで千鳥を見ている。
熱田に詣。
社頭大イニ破れ、築地はたふれて草村にかくる。かしこに縄をはりて小社の跡をしるし、爰に石をすえて其神と名のる。よもぎ・しのぶ、こゝろのまゝに生たるぞ、中ゝにめでたきよりも、心とゞまりける。
しのぶさへ枯て餅かふやどり哉
現代語訳
熱田神宮に参詣する。
境内はたいそう荒れ果てており、土塀は倒れて草むらにかかっている。あちらに縄を張って末社の跡をしるし、こちらに石を置いて何々の神の御座所としている。蓬・忍草が思いのままに生えしげり、かえってちゃんとしているよりも、心惹かれるものがある。
しのぶさへ枯て餅かふやどり哉
忍草さえ枯れてしまった神社の茶店で、わずかに餅を買って腹を見たし、わびしい情緒をしみじみ味わうのだった。
語句
◆熱田…熱田神宮。名古屋市熱田区。三種の神器の一つ草薙神剣をご神体とする。◆社頭 神社の境内。芭蕉が『野ざらし紀行』の旅で訪れた貞享元年には荒れ果てていたが、二年後の『笈の小文』の旅ではきれいに改修された。 ◆築地…土塀。 ◆小社…境内に祀られている末社。
名護屋に入道の程、風吟ス。
狂句木枯の身は竹斎に似たる哉
草枕犬も時雨るかよるのこゑ
雪見にありきて
市人よ此笠うらふ雪の笠
旅人をみる。
馬をさへながむる雪の朝哉
海辺に日暮して
海くれて鴨のこゑほのかに白し
現代語訳
名古屋に入る道の途中、句を吟じた。
狂句木枯の身は竹斎に似たる哉
狂句を詠みながら旅をしているわが身を見ると、あの仮名草子の主人公竹斎にも似ているなあ(竹斎は狂句を詠みながら諸国遍歴を続けるやぶ医者)。
草枕犬も時雨るかよるのこゑ
時雨がふりしきる夜。旅根の枕に、犬の声が響いてくる。犬も時雨のわびしさに耐えかねて鳴いているのだろうか。
雪見にうかれ歩いて、
市人よ此笠うらふ雪の笠
町の人々よ、この笠を売りましょう。雪をかぶった、風流な、雪の笠ですよ。
旅人を見る。
馬をさへながむる雪の朝哉
雪の朝は、何もかも新鮮に見えて、普段は気にも留めない馬の姿にも目がいくほどだ。
海辺に一日中すごして、
海くれて鴨のこゑほのかに白し
海を見ているだけで今日は日が暮れてしまった。沖のほうから鴨の声がほの白い感じで聞こえてくる。
語句
◆風吟…詩歌を吟ずること。 ◆「狂句木枯の~」…連句『冬の日』の巻頭の句。後に「狂句」をはぶく。「竹斎」は仮名草子『竹斎』の主人公の藪医者。狂句を詠みながら全国を渡り歩く。名古屋も作中で訪れた。芭蕉は自分を竹斎と重ね合わせている。 ◆「草枕~」…「草枕」は旅寝のこと。「時雨る」は時雨が降ることに加えて、涙を流す暗示。 ◆ありく…うかれ歩く。
野ざらし紀行 地図2
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