大井川・小夜の中山
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大井川越ゆる日は、終日、雨降ければ、
秋の日の雨江戸に指おらん大井川 ちり
馬上吟
道のべの木槿は馬にくはれけり
現代語訳
大井川越える日は、一日中雨が降っていたので、
秋の日の雨江戸に指おらん大井川 ちり
秋の雨続きに、江戸の人々は指折り数えて、私たちのことを、そろそろ大井川にかかったかな、ひょっとして川で足止めを食っているかも、などと話し合っているかもしれないな。 千里
馬の上で吟じた句。
道のべの木槿は馬にくはれけり
道端に木槿が咲いている、と見る間に馬が首をのばして、むしゃむしゃと木槿を食べてしまった。
語句
◆大井川…駿河と遠江の境にある川。駿河湾に注ぐ。 ◆「道のべの~」…季語は「木槿」で秋。
二十日余の月、かすかに見えて、山の根際いとくらきに、馬上に鞭をたれて、数里いまだ鶏鳴ならず。杜牧が早行の残夢、小夜の中山に至りて忽驚く。
馬に寝て残夢月遠し茶の煙
現代語訳
二十日過ぎの有明の月がかすかに見えて、山の麓のあたりはたいそう暗い中、馬の上で鞭を垂れ、はるばる進んできたが、未だ鶏は鳴かない。杜牧が「早行」に詠んだように、まだ夢の中にいる心地のまま、小夜の中山に至って、はっと目が覚めた。
馬に寝て残夢月遠し茶の煙
夢の心地のままうとうしながら馬に揺られて来たが、ハッと気づいて辺りを見渡すと有明の月がはるか遠くにかかり、家々からは朝の茶を煮る煙が立ち昇っていた。
語句
◆二十日余の月…陰暦二十日過ぎの月。有明の月。 ◆山の根際…山の麓のあたり。 ◆杜牧が早行の残夢…杜牧(803-853)中国晩唐の詩人。李白より100年ほど後に活躍した人物。杜牧作「早行」に「鞭を垂れて馬に信(まか)せて行く、数理(すり)未だ鶏鳴鳴らず、林下残夢を帯び、葉飛んで時に忽ち驚く、霜凝って孤雁はるかに、月暁にして遠山横たわる、僮僕険を辞するを休(や)めよ、何(いづ)れの時か世路平かならん」。 ◆残夢…まだ夢の名残で夢が続いているような心地。 ◆小夜の中山…歌枕。さよのなかやま。さやのなかやま。静岡県掛川市にある峠。佐夜の中山とも。左右の谷が深く東海道の難所として知られる。西行法師も小夜の中山を越えて歌を詠んでいる。 ◆「馬に寝て~」 季語は「月」で秋。
野ざらし紀行 地図1
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