竹の内・二上山

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大和の国に行脚して、葛下の郡竹の内と伝処は彼ちりが旧里なれば、日ごろとどまりて足を休む。

わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく

現代語訳

大和の国に行脚して、葛下の郡竹の内という所は、例の千里の故郷であるので、数日留まって足を休める。

わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく

綿弓をびんびんと弾く琵琶のような音。その音に旅の心を慰めるのだ。竹やぶの奥の、この閑居なすまいで。

語句

◆葛下の郡…奈良県北葛城郡。 ◆竹の内…当麻町竹内。 ◆「わた弓や~」…「綿弓」は「綿打ち弓」とも。綿打ちをする道具。見た目はまさに「弓」で、弦を指ではじいて綿の繊維をほぐす。打つ時に琵琶のような音がする。


ニ上山当麻寺に詣でゝ、庭上の松をみるに、凡千とせもへたるならむ。大イサ牛をかくす共伝べけむ。かれ非情といへども、仏縁にひかれて、斧斤の罪をまぬかれたるぞ幸にしてたつとし。

僧朝顔幾死かへる法の松

現代語訳

ニ上山当麻寺に詣でて、庭の松を見ると、およそ千年も経ているかと思われる。大イサ牛を隠すと『荘子』に語られているように、まさに牛を隠すほどの大きな松だ。松に心は無いといっても、寺に庭に植えられている縁によって、斧で切り倒されることから免れているのは、幸いで尊いことだ。

僧朝顔幾死かへる法の松

この寺の僧も朝顔も、何度生まれ変わったか知れない。しかしこの松だけは、仏縁に惹かれて千年の齢を保っている。

語句

◆ニ上山…奈良県北葛城郡当麻町と大阪府南河内郡との間にある山。山麓に当麻寺(禅林寺)がある。中将姫の伝説で名高い。 ◆大イサ牛をかくす…「櫟社の樹を見る。その大いさ牛を蔽(かく)す」(『荘子』「人間世篇」)。「イサ」は「キサ」の音便。「櫟社」は神木を社としたもの。 ◆非情…心が無い。有情の反対。木や石など心が無いもの。 ◆仏縁…寺の庭に生えているという縁。 ◆斧斤の罪…「斤」も斧。斧で切り倒される罪。「斧斤に夭せられず、物害する者無し」(『荘子』「逍遥遊篇」)。


野ざらし紀行 地図2

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解説:左大臣光永