木曽願書

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燧ヶ城の勝利に勢いづいた平家方は斉明を参謀として
加賀に侵攻、さらに越中に迫ります。

義仲は四天王の一人今井兼平6000騎をもって
越中般若野で、平家先遣隊平盛俊5000騎を破ります(般若野の戦い)。

1183年5月 越前般若野の戦い
【1183年5月 越中般若野の戦い】

破られた平家方はいったん加賀の篠原まで後退するも、
部隊を大手、からめ手の二手に分けて再度東へ侵攻します。

加賀と越中の境倶利伽羅峠には平維盛、平忠教らの7万余騎
能登の志雄山(しおやま)には平通盛、平知度の3万余騎…

南北から木曽方を挟み撃ちにする作戦です。

対して木曽方では砺波山の倶利伽羅峠には
義仲、今井、巴らの本体、

志雄山へは新宮十郎行家、
四天王の一人楯親忠らがあたります。

1183年5月 倶利伽羅峠の合戦直前の状況
【1183年5月 倶利伽羅峠の合戦直前の状況】

義仲は砺波山の北のはずれ羽生に陣を取っていました。

来る平家軍との決戦を前に、
義仲は峠の見晴らしのよい位置から外波山の全景を見渡します。

ケキョ、ケキョ、キチキチキチ…

いろんな鳥が鳴いていて、
五月の木々の緑が目にまぶしいです。

ふいと見ると
木々の合間に赤い鳥居が見えました。

「何だあの鳥居は」
「はっ。羽生の八幡にございます」
「なに八幡宮とな。このような山中で八幡の玉垣に行き会うとは
なんと幸先のよいことじゃ。ひとつ戦勝祈願の願書をささげようと思うが、どうじゃ覚明」
「はっ、まことによいお考えです」

八幡といえば源氏の守り神です。

そして声をかけられた太夫坊覚明。

義仲の軍師とも書記ともいわれる謎の多い人物です。
もとは興福寺の僧でしたが、以仁王の乱の時、三井寺が興福寺に協力を
求めてきた手紙の中で、それに答えて清盛をののしる強烈な言葉を書きました。

清盛は平氏のそうこう武家のちんがい

「そうこう」は酒かすと米ぬか、「ちんがい」はゴミとちり。
清盛はゴミクズ、つまんない野郎だということです。

この手紙を見て清盛があまりに怒ったため、「やばい」ということで
覚明は北陸に逃れ木曾義仲のもとに身を寄せました。

口は悪いが頭は切れる太夫坊覚明。
義仲の軍師とも書記ともいわれる謎の多い人物です。

その覚明が、スラスラスラっと即興で
戦勝祈願の願書を書きます。「木曾願書」といわれ、
名文として名高いです。

言葉が難しいですが、あえて原文で見ていきましょう。
平家物語の中にはこのようにいくつか手紙をまるまる引用した
くだりがあり、言葉は難しいですが、勢いがあって声に出すと気持ちいいです。

帰命頂礼八幡大菩薩は日域朝廷の本主累世明君の曩祖なり。宝祚を守らんが為蒼生を利せんが為三身の金容を現し三所の権扉を押し開き給へり。ここに頻んの年より以来平相国といふ者あり。四海を管領して万民を悩乱せしむ。これ既に仏法の怨王法の敵なり。義仲苟も弓馬の家に生れて僅かに箕裘の塵を継ぐ。かの暴悪を案ずるに思慮を顧みるに能はず。運天道に任せて身を国家に投ぐ。試みに義兵を起して凶器を退けんとす。然るを戦闘両家の陣を合はすといへども士卒未だ一致の勇を得ざる間まちまちの心怖れたる処に今一陣旗を挙ぐる戦場にして忽ちに三所和光の社壇を拝す。機感の純熟明らかなり。凶徒誅戮疑ひなし。欽喜涙こぼれて渇仰肝に染む。就中曾祖父前陸奥守義家朝臣身を宗廟の氏族に帰付して名を八幡太郎と号せし €€€€€€€€€€??り以来その門葉たる者帰敬せずといふこと無し。義仲その後胤として首を傾けて年久し。今この大功を起すことたとへば嬰児の貝を以て巨海を測り蟷螂が斧を怒らかいて龍車に向かふが如し。然りといへども国の為君の為にしてこれを起す。全く身の為家の為にしてこれを起さず。志の至り神感天に在り。頼もしきかな悦ばしきかな。伏して願はくは冥顕ミ`ヨ・力を合はせて勝つ事を一時に決し怨を四方へ退け給へ。然れば則ち丹祈冥慮に叶ひ玄鑑加護を成すべくばまづ一つの瑞相を見せしめ給へ。寿永二年五月十一日。源義仲敬つて白す

太夫夫覚明が朗々と読み上げます。緑深い山奥の神社で声出して…
最高ですね。気持ちよく声が響いたでしょう。
風もますます涼しく感じられたことでしょう。

義仲以下、こぞって
源氏の白旗をかかげ、バタバタバタバターたなびいている中、
戦勝祈願の祈りをささげます。

すると、

はるかの雲の中から山鳩が三羽飛びきたって、
源氏の白旗の上をスーイスーイと旋回し、また飛び去っていきました。

「おお」
「あれぞ八幡大菩薩の化身!」

一同手勝利を確信し、手を合わせました。

≫次章「倶利伽羅峠の合戦」

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