忠度の最期

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薩摩守忠度(忠教)は清盛の末弟で、武道にも歌道にもすぐれた人物です。
平家一門都落ちの際歌道の師藤原俊成に歌をたくしていった逸話「忠教都落ち」は
今日でも教科書などに採りあげられ有名な哀れ深いエピソードです。

薩摩守忠度
【薩摩守忠度】

忠度は一の谷の合戦で西手の塩屋口を守っていましたが、
百騎ばかりの中に囲まれて海岸沿いを東へ逃げ落ちていきます。

塩屋口を破られた薩摩守忠度
【塩屋口を破られた薩摩守忠度】

そこへ源氏方の岡辺六野太が大将軍とみて呼びかけます。

「そこへ落ち行くはいかなる人ぞ。名乗らせたまえ」

忠度を呼び止める岡辺六野太
【忠度を呼び止める岡辺六野太】

忠教は馬上で軽く振り返り、

「これは味方ぞ。間違えるな」

しかし、その開いた口の間から見える歯は真っ黒でした。
高貴な人がするお歯黒です。

「む。源氏にはそのようなお歯黒をする者はいない。
平家の公達であろう」

馬を翔らせ押し並べてむずと組みます。

忠教を取り巻いていた百騎はみな諸国からかき集めの武者だったので、
これを見てわれ先にと逃げ散ってしまいました。

「憎たらしい敵だ。味方だと言っているのだから、
言わせておけばよいのに」

忠教は熊野育ちの強力で六野太を取り押さえ、馬の上で二刀、
馬から落ちたところでさらに三刀刺しますが、
いずれも致命傷には至らず、取り押さえて首をかこうとしている所へ、

「お屋形さま!!」

六野太につかえる童が駆け寄り、刀を抜き忠教の
右腕を付け根からズバアと切り落とします。

腕を落とされた忠教。もはやこれまでと、六野太をつきとばし、
「念仏を唱える。しばらくどいておれ」
西に向かい高らかに念仏を唱えているところを、
うしろから歩み寄った六野太がズバッと忠教の首を討ちます。

「はて。名のある平家の大将軍と思われるが…
ついに名乗られなかった。いったいなんという方であろう」

ふと見ると箙に文がくくりつけられており、
それを解いてみると、「旅宿花」という題で一首の歌が
書かれていました。

ゆきくれて木のしたかげを宿とせば
花やこよひのあるじならまし 忠教

旅の途中で日が暮れてしまった。今宵は木の下の陰を宿として眠ることにしよう。
さしずめ花が今夜の宿のあるじとなって、私をもてなしてくれるだろう。

イキな歌ですが…、これが忠教の辞世の歌のように
なってしまいました。

「おお!忠教殿じゃ!」
「忠教殿…」
「武道にも歌道にも聞こえの高い、あの薩摩守殿か!
なんと惜しむべき大将軍を…」

薩摩守忠教が討たれたときき、
周囲にいた敵も味方も、みな涙を流し、袖を濡らさぬ者はありませんでした。

唱歌「青葉の笛」で忠教の逸話が歌われています。

更くる夜半に 門を敲(たた)き
わが師に託せし 言(こと)の葉あわれ
今わの際まで 持ちし箙(えびら)に
残れるは「花や 今宵」の歌

≫次章「敦盛最期」

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