五吟連句
廿六日
芽出しより二葉に茂る柿の実(さね)
畠の塵にかゝる卯の花 蕉
蝸牛(かたつむり)頼母(たのも)しげなき角(つの)振て 去
人の汲間(くむま)を釣瓶(つるべ)待也(まつなり) 丈
有明に三度飛脚(さんどびきゃく)の行哉(ゆくや)らん 乙
廿七日
人不来(ひときたらず)、終日得閑(しゅうじつ かんをう)。
現代語訳
芽出しより二葉に茂る柿の実(さね)
(ここ落柿舎では、その名の通り柿が豊かに実る。柿の実から出た芽は、もう勢いよく二葉に茂っている)
畠の塵にかゝる卯の花 蕉
(黒い畠には塵のように白い卯の花が散りかかっている)
蝸牛(かたつむり)頼母(たのも)しげなき角(つの)振て 去
(卯の花の咲いているあたりでは、カタツムリが頼もしげもない角を振っている)
人の汲間(くむま)を釣瓶(つるべ)待也(まつなり) 丈
(釣瓶井戸では前の人が汲み終わるのを待っている人がある)
有明に三度飛脚(さんどびきゃく)の行哉(ゆくや)らん 乙
(有明の月がまだ空に残る明け方、三度飛脚とおぼしき者が駆けて行く)
二十七日。誰も来ないので一日のんびりできた。
語句
■三度飛脚 江戸と京阪を月に三度往復する飛脚。
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嵯峨日記 現代語訳つき朗読
朗読・解説:左大臣光永