山木兼隆邸の戦い

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「目指すは山木兼隆の首!!」

ドカカ、ドカカ、ドカカ、ドカカ

頼朝に山木兼隆討伐を命じられた北条時政は、
40騎ばかり率いて牛鍬大路を直進し、
山木兼隆の館を目指します。途中、北条時政は馬を止め、
佐々木兄弟に言います。

「兼隆の後見人の堤信遠が、山木館の北方にいる。
すぐれた豪傑なので、討ち取っておかなければ後々災いになる。
佐々木兄弟は信遠を討ち取ってきてくれ。道案内をつけよう」

「おうよ北条殿」
「我ら佐々木兄弟に、お任せあれい!」

最初の一矢

佐々木兄弟は堤信遠の館を目指して牛鍬大路を直進。
子の刻(午前0時)堤信遠の館前に集まりました。

長男定綱と四男高綱は館の裏手にまわり、
次男経高は前庭にすすみ、それぞれ矢を放ちます。

キリキリキリキリ…
ひょう、ひょうひょう

ドスッ、ドス、ドスッ

「かかれーーっ!!」

この時佐々木経高が放った矢が、源氏が平家をほろぼす戦いで
最初に放たれた矢となりました。

源家が平家を制する最前の一せんなり(吾妻鏡)

月は中空にこうこうと輝き、あたり一帯ま昼のような明るさでした。

「なっ!敵か?」
「敵??敵ってどこの敵だ!?」
「知らん。とにかく射殺せ!!」

ひゅん、ひゅんひゅん

信遠の郎党たちは敵の正体もわからないまま、
矢を放ちます。信遠本人も太刀を手に取って

「なにやつじゃーーーッ!!」

縁側から庭に飛び出し、
西南の方角に敵を迎え撃ちます

経高は矢をからりと投げ捨て太刀に持ちかえると、
敵将堤信遠に真正面から切り込んでいきます!

「我こそは佐々木秀義が次男、
佐々木次郎経高ッ!!
堤信遠、そのほうに恨みは無いが、
わけあってその命もらいうける!!」

「ぐぬう…佐々木の子倅どもか!」

キン、カン、キーン

佐々木経高と堤信遠。互いに我おとらじと
戦いますが、そこへ飛んできた遠矢が

ひょーーっ、ズバッ

「ぐはっ!!」

経高の肩を射抜きます。その時、経高の後ろから、

「兄弟!」
「加勢するぞ!!」

長男定綱、四男高綱が参戦し、激闘の末に堤信遠を
討ち取りました。

一方、北条時政の本隊は
中央の道を進み、山木兼隆の舘の前の天満坂まで来ると、

キリキリキリキリ…
ひょう!!
どすっ、どすっ、

館に矢を放ちます。

「なっ!敵か?」
「敵??敵ってどこの敵だ!?」
「知るか。とにかく射殺せ!!」

「討ち入れーーッ!!」

北条時政の本体は大挙して山木兼隆の館に
駆け込んでいきました。

この日、山木兼隆の郎党たちの多くは三嶋大社の祭礼に出て、
帰りに黄瀬川の宿で遊び歩いていました。

しかし留守をあずかる郎党はいずれもつわものぞろいで、
北条時政のわずかな手勢では苦戦を強いられます。

あせる頼朝

北条時政の舘から様子をうかがっていた頼朝は、
だんだん焦ってきます。

館から煙が上がったのを確認させるため、
配下の者を木にのぼらせ見晴らせていましたが、
いまだに煙は見えませんでした。

「まだか?」
「まだですね」
「そろそろどうか?」
「見えません」

「失敗か……?
それとも裏切りか……?」

頼朝の心に疑いがおこります。

そこで頼朝は、そばに仕えていた佐々木盛綱、
加藤景廉、堀親家の三人に命じます。

「すぐに山木に赴き、合戦に加勢せよ」
「心得ました」

「…ああ待て待て」

すぐに北条館を駆け出そうとした加藤景廉を
頼朝は呼び止めます。そして、

がしゃり

長刀を手渡します。

「必ず、この長刀で山木の首を上げてこい」

「…ははっ!」

山木舘の戦い

加藤景廉らは馬にも乗らず蛭嶋通りの堤を走り、山木兼隆の舘に到着します。
でやっ、だあっと、すでに舘の中では激しい戦いが始まっていました。

「加藤景廉、加勢ーーッ!!」

ダダダダダ…

加藤景廉は館の中に飛び込んでいきます。

この時、山木兼隆は
部屋に閉じこもって、太刀を構えてがたがた、がたがた、 震えていました。

「ううう…どうしてこんなことになったのじゃ。
わしはマジメに仕事をしてきただけなのに…」

加藤景廉は、

すっ、すっ、すすっと

廊下づたいに壁にへばりついて進みます。

山木兼隆の部屋の脇まで来ると、部屋の中で
震えている山木兼隆の影が見えました。

「ふん、確実にしとめてやる」

加藤景廉は兜を脱ぎ、長刀の先に兜をひっかけて、
すーーとかかげます。

それが向こうから見ると、まるで武者が廊下の角から
のぞきこんでいるように見えるわけです。

「はっ…敵だ!あわわ…
こっちをうかがっている!!
ううう…どうしよう。しかし私とて平氏のはしくれ。
むざむざとやられはせぬ!」

「きえーーっ!!」

山木兼隆は太刀をかまえて斬りかかります。しかし
斬りかかったその太刀が、

どすっ!

鴨井に突きささります。

「ぬっ、ぐぬっ、ぐぬぬ!」

山木兼隆が鴨居につきささった太刀をひっこ抜こうと
ジタバタ、ジタバタしているところへ、

ドカーー

障子を蹴破って入ってきた加藤景廉が
長刀で、

ズバーー

「ぐっは!!」

山木兼隆を貫いて、そのまま自分のほうに引き寄せ、腰刀を抜くと、

ずぶずぶずふずぶ

首かっ切ります。パアーーッと障子の上に飛び散る鮮血。

加藤景廉は山木兼隆の首を長刀の先にぶっ挿して、
高くさし上げ、叫びます。

「加藤景廉が山木兼隆を
討ち取ったりィーー!!」

ぼっ、ぼっ、ぼぼっ…

そして舘に火をつけます。

勝利の後

「はっ…!!
煙が!佐殿、煙が上がりました!!」

木の上の見張りが報告します。

「なに!まことか」

山木の館からすーーっと
煙が上がっていくのが、頼朝の位置からも見えました。

「勝った…勝ったのか!!」

なにしろ頼朝、20年間念仏してきた男です。
こんな時はお経の一節でも口をついて出たに違いありません。

翌早朝、頼朝と郎党たちは山木兼隆と
郎党たちの首を庭にならべ、縁側から検分します。

「まずは勝利」

つぶやいた頼朝に北条時政が答えます。

「しかし祝宴を挙げている
暇はありませんぞ。
すぐにも平家が討手を
差し向けてくることは必定です」

「うむ。ぐずぐずしてはおれぬな」

「佐殿!」「御曹司殿!」

「20年の苦節、ようやく…」

ワァーー、ワァーー

集まった伊豆・相模の武士たち40騎あまり。
口々に頼朝の旗揚げを喜び
熱い涙を流す者もありました。

頼朝一行は相模の三浦一族・伊豆の土肥実平との合流をはかり、
湯河原方面へ出発します。

≫次章「石橋山の合戦」

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