蜻蛉日記

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『蜻蛉日記』は、夫への不満、恨み、憎しみを
延々と書き綴った日記です。

私のもとに通ってくれない、あれしてくれない、
これしてくれない、不満、恨み、憎しみ。

なんと21年間ぶん。すさまじい負のエネルギーです。

嫉妬と憎しみの見本市

作者は藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)。
本名はわかっていません。平安時代中期の作品です。

作者はエリート中のエリートである藤原兼家に
求婚され結婚します。

しかし夫兼家の浮気にいつもヤキモキさせられ、
愛情を独占できないという恨み不満憎しみが増すばかり。

長男道綱が生まれるものの、夫の足は遠のいていくのでした。

長い結婚生活の間には楽しいこと、ユカイなこともたくさんあったろうに、
そういう明るい話題は意図的に避けられ、暗い話重い話ばかりが執拗に収集され、陳列されています。すごくドロドロした、怨念めいたものを感じます。

ほとんどの男性は共感できないでしょう。
というか、途中で投げ出すと思います。
嫉妬と憎しみの見本市です。
ぼくは読んでて気分が悪くなりました。

むしろ女性でも共感できる方は
少ないんじゃないでしょうか。

地獄の底からこみ上げるような負のエネルギー、
女性のイヤーな部分がとてもよく出ている、
文章というはけ口がなかったら、この作者は
さらにロクでもないことになっていたことでしょう。

「蜻蛉日記」 その構成

「蜻蛉日記」は三部に分かれます。第一部が15年間、
第二部、第三部がそれぞれ3年間のできごとをつづっています。

第一部では兼家からの求婚、結婚、息子道綱の出産。
そして夫に愛人があらわれ嫉妬に狂います。

第二部ではますます兼家の足は遠ざかり、
作者は出家すると言って騒ぎます。
(でも息子に泣き言をいわれ出家はやめました)

第三部では兼家からの愛をすっかりあきらめ、
息子道綱の将来に望みをたくします。

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道綱母 その人物

与えられることをジッと待つだけで、与えることをしない、
私を幸福にしてよ。どうして私だけ愛してくれないのと、
恨みつらみ。未成熟というか。人間的に、小さいと思います。
ノイローゼ、お嬢様育ちで世間知らず。

夫兼家と愛人の間にできた子供が病気で死んだときは、
これで少し気が晴れたザマーミロみたいなこと書いてます。

歌がうまくて美人だから救いがあるものの、
それ以外は人間として終わっています。

後半は旦那からの愛情をあきらめ、息子道綱の将来に望みをかけていますが、
こんな母を持った息子こそたまったもんじゃありません。
息子に自己愛を投影している感じがします。

嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る

百人一首にも採られているこの歌などは、よく
作者の人柄をあらわしています。

私を訪ねてくれないあなたのことを思いながら独り寝の夜の
なんと長いことでしょう。あなたには、わからないでしょうけど。

おっとろしい怨念に満ちています。
こんなこと言われたら男は引いちゃうと思います。

夫 藤原兼家 その人物

そして、ギャアギャア言われている旦那・藤原兼家が
それほどヒドイ男性かというと、
ぜんぜんそんなことは無いです。

まったく、逆です。スバラシイ男性です。

血筋も申し分なく、出世街道をひた走る、
エリート中のエリートです。

摂政となり天皇家の外戚として権力をふるい、
太政大臣、関白にまでのぼりつめます。

藤原氏繁栄の基礎をきずいた人物です。

しかもユーモアのセンスもあり、気さくで、
モテまくりです。

作者もこんなスバラシイ男性にいい暮らしを保障されていたのだから、
ほんの少しでも感謝の言葉を書けばいいのに。ゆがんでます。

皮肉なことに作者が夫の悪口を書けば書くほど、
夫の人間的大きさが浮き彫りになっています。

一夫多妻の通い婚

まあ当時は一夫多妻の、通い婚ですから、
結婚といっても女性の立場はとても弱いものでした。

男性が通ってこなくなれば、
それきり生活のよりどころが無くなるのです。

部屋で待っていて、あ、あの人の車が通る。
表に、先払いの声がする。今度こそ来てくれたんだわと、
化粧なんか整えて、待っている。

今か今か、今度こそ私の館で止まってくれる。
ガタガタガタ…

でも男の車は、無情にも門前を通り過ぎていってしまう…
ああなんてつれないお方。私の気持も知らないで。

そんな場面もあったのです。

かさぶたをひっぺがす感覚

というわけで、

読んでもけしていい気分になれる作品ではないです。
むしろ気が滅入ります。

しかし「蜻蛉日記」には、
人をひきつけてやまない何かが、あると思います。

それはホラー映画をみたり、インターネットでグロ画像を
検索するときの、ドギツイ世界をのぞいてみたい、
かさぶたをひっぺがす感覚に
近いものがあるんじゃないでしょうか。

冒頭 かくありし時過ぎて

原文

かくありし時過ぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経る人ありけり。かたちとても人にも似ず、心魂もあるにもあらで、かうものの要にもあらであるも、ことわりと思ひつつ、ただ臥し起き明かし暮らすままに、世の中に多かる古物語のはしなどを見れば、世に多かるそらごとだにあり、人にもあらぬ身の上まで書き日記にして、めづらしきさまにもありなむ、天下の人の品高きやと問はむためしにもせよかし、とおぼゆるも、過ぎにし年月ごろのこともおぼつかなかりければ、さてもありぬべきことなむ多かりける。

現代語訳

半生を虚しく過ごしてきて、まことに頼りなく、どっちつかずな感じで生きている女がいた。容貌も人並み以下で、分別もあるような無いような、こんな人間が世の中から必用とされないのも当たり前だと思いつつ、ただ毎日起きて寝てボサっと暮らしていた。

そんな中、世の中に多くある昔物語のはしばしを読んでみると、ありきたりな作り話ですら人の注文を集めなどしている。私のように人並みでない経験を持った者が日記を書いたら、さぞ重宝がられ、注目されるんじゃないか。

最上級に身分の高い男性と結婚したら、その結婚生活はどんなものなのか?その例となればいいと思ったものの、過去のことはだいぶ忘れている。まあ不完全でも書かないよりはいいだろうという気持で、あいまいに書いた部分も多くなってしまった。



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