熊谷平山一二の懸

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一の谷の城塞に総攻撃をかける予定の2月7日、その前の晩、
義経軍の中にいた熊谷次郎直実は息子小次郎直家とともに義経軍を抜け出します。

熊谷父子、義経軍を離脱
【熊谷父子、義経軍を離脱】

熊谷父子、義経軍を離脱

「70騎で坂をかけおりて奇襲をかける…そのような奇策を用いるのでは、
だれが戦場に一番乗りをしたという話でも、なくなってくる。
われらはこれより義経軍を離脱し土肥実平殿が進撃している播磨路へ向かい、
一の谷の先陣を駆けようようと思う」

「父上!もとより小次郎もそのつもりでした。すぐに出発いたしましょう」

こうして熊谷父子は義経軍を離脱し、土肥実平が進撃している
播磨路へ向かい、深夜塩谷口に到着します。

熊谷父子、塩屋口に到着
【熊谷父子、塩屋口に到着】

土肥実平七千騎が夜営している脇を通り過ぎ、一の谷の西の木戸口に押し寄せ、
父子で名乗りを上げます。

「武蔵の国の住人熊谷次郎直実」
「子息直家」
「一の谷の先陣ぞやーッ!!」

しかし平家軍は相手にしません。

「バカがこんな夜中に。ほおっておけ。
ワアワア言わせておけば勝手に疲れ果てるだろう」

だーれも出てきて戦おうとはしません。

「父上、どうしたものでしょうか」
「ばかもの。どうしたもこうしたも無い。
このまま、朝まで待つ!」

こうして、熊谷父子はその場で朝を待つことにしました。

暁の笛の音

夜が更けたころ、
背後からパッカパッカと馬で近づいてくるものがあります。

熊谷父子に平山季重が合流
【熊谷父子に平山季重が合流】

「おっ、熊谷殿。いつからいらっしゃるのですか」
「おお平山殿。…宵の口からずっとですよ」
「ははは。熊谷殿は戦に熱心ですなあ。まあ敵の動きも無いようですし、
ゆっくり朝を待ちましょう」

熊谷と小次郎と平山、城塞の外で朝を待つことにします。
明け方近くなったころ、

ピイー、ヒョロー、

城塞の中からかすかな笛の音が響いてきます。

「ん?戦場で笛の音か…」
「平家方は風流ですなあ」

熊谷親子、再度名乗る

そのうちに夜が白々と明けてきます。
熊谷父子は、さっき名乗ったことは名乗ったが後から来た平山にも
我らが一番乗りだと示すため、平家の陣営へ向けて、
もう一回名乗ります。

「以前名乗った武蔵の国の住人熊谷次郎直実」
「子息小次郎直家」
「一の谷の先陣ぞや」

平家方は、

「ええやかましい。夜中じゅうワアワア言いおって。
ロクに眠れなかったではないか!」

悪七兵衛景清
【悪七兵衛景清】

バーーンと門が開いて平家方の悪七兵衛景清らが
バカバカバカッと馬で駈け出してきます。

熊谷父子に続き平山も名乗りを上げます。

「昔保元・平治の合戦で先駆けをつとめた平山武者所季重」

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熊谷かくれば平山つづき、平山かくれば熊谷つづく。
たがひにわれおとらじと入かへ入かへ、もみにもうで、
火出づる程にぞ攻めたりける。
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平家軍はかなわじと見て城塞の中に引きこもります。

小次郎、左腕を負傷

熊谷は馬に傷を負い、息子小次郎は左腕に傷を負いました。
熊谷は息子小次郎を心配して言います。

「小次郎!傷を負ったのか」
「たいした傷ではございません」
「そうか…戦の時は常に鎧をゆすり上げ、
鎧のスキ間に矢を射たてられないようにせよ。
甲のしころを傾けて、顔面を射られぬようにせよ」
「はっ」

その後、熊谷は馬を乗り換え、小次郎、平山と三騎で
一の谷の城塞の中に飛び込んでいき、さんざんに戦って
多くの敵を討ち取り、引き上げていきました。

≫次章「梶原の二度懸」

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