奈良・京・伏見・大津・辛崎・水口

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奈良に出る道のほど

春なれや名もなき山の薄霞

二月堂に籠りて

水とりや氷の僧の沓の音

現代語訳

奈良に出る道の途中、

春なれや名もなき山の薄霞

もう春なのかなあ。大和路をたどると、名の知れた山々はもちろん、名も無い山にさえ薄霞が立って、趣深く思えるよ。

二月堂に籠って、

水とりや氷の僧の沓の音

奈良の東大寺ではお水取りの儀式が行われている。深夜の寒々とした堂内を忙しく働く白衣を着た僧の姿。堂内に高らかに響く木沓の音。いかにも厳かな空気をかもし出している。

語句

◆二月堂…奈良東大寺の二月堂。旧暦2月1日から14日間「お水取り(修ニ会)」が行われるのでこの名がある。 ◆「水とりや~」…「水とり」は奈良東大寺の「お水取り」(修ニ会)。旧暦2月1日から14日間行われ、特に7日と12日の夜には堂のかたわらの閼伽井屋(あかいや)の中の若狭井(わかさい)から水を汲み取る儀式が行われる。 「氷の僧」は寒々とした深夜の堂内をめぐる白衣を着た僧をこう表現した。一説に「籠りの僧」の聞き間違いとも。 「沓の音」は僧の履く木履の音。


京にのぼりて、三井秋風が鳴滝の山家をとふ。

梅林

梅白し昨日や鶴を盗れし

樫の木の花にかまはぬ姿かな

現代語訳

京にのぼって、三井秋風の鳴滝の山荘を訪れた。

梅林

見事な白梅ですね。梅といえばいにしえの詩人林和靖が梅と鶴を愛した故事が思い出されますが、ここには梅はあるが鶴の姿は見えません。昨日にでも人に盗まれたのでしょうか。

樫の木の花にかまはぬ姿かな

樫の木が一本立っていますね。この庭には美しい花が多くある中で、他の花々には目もくれず、凛とした姿で立つ樫の姿。まるでこの館の主人のようです。

語句

◆三井秋風…1646~1717。名は六右衛門時次。談林派の俳諧師。鳴滝(京都右京区)に別荘があり、多くの俳人が出入りしていた。越後屋呉服店を開いた三井高俊の3男重俊の子で,呉服商の釘抜三井家をつぐ。 ◆「梅白し~」…中国北宋の隠士林和靖(りんわせい、林逋 967-1028)の故事に基づく。林和靖は西湖の孤山に隠棲し、梅を妻にみたて、鶴を子に見立て、生涯独身を通したという。この句は三井宗風を林和靖に見立てた挨拶の句。 ◆「樫の木や~」…庭に立つ樫の木を隠棲の三井秋風に見立てた挨拶の句。


伏見西岸寺任口上人に逢て

我がきぬにふしみの桃の雫せよ

現代語訳

伏見西岸寺任口上人に逢って

我がきぬにふしみの桃の雫せよ

私の衣に、桃の名所伏見の花の雫をしたたらせるように、任口上人よ、貴方のすばらしい教えや徳を私に授けてください。

語句

◆伏見西岸寺…伏見油掛町にある浄土宗知恩院の末寺。正式には油懸山地蔵院西岸寺。 ◆任口上人…西岸寺の三世住職。任口は俳号。1606~1686。 ◆「我がきぬに~」…伏見は江戸時代伏見城の跡地に桃が植えられて以来、桃の名所。この句は桃の花のしずくに、任口上人の教えや徳を重ねた挨拶の句。

 

大津に至る道、山路をこえて

山路来て何やらゆかしすみれ草

湖水の眺望

辛崎の松は花より朧にて

現代語訳

大津に行く道の途中で山路を越えて

山路来て何やらゆかしすみれ草

山道に来てふと見るとすみれ草が咲いている。なんとなく趣深い。

琵琶湖を眺めて

辛崎の松は花より朧にて

近江の名勝辛崎の松は琵琶湖のほとりにあって、桜花よりいっそう霞んで見える。

語句

◆「辛崎の~」…「辛崎」は琵琶湖西岸。大津の北。「辛崎の松」は唐崎神社の「一つ松」。「唐崎の夜雨」は近江八景の一つ。琵琶湖のすぐほとり。季語は「朧」で春。

水口にて、二十年を経て故人に逢ふ。

命二ツの中に生きたる桜哉

現代語訳

水口で二十年を経て旧友と再会した。

命二ツの中に生きたる桜哉

旧友と私と。二十年間別々の人生を歩んできた二人だが、その二つの命が今日、再会した。桜咲き乱れるこの季節に。

語句

◆「水口に~」…「水口」は滋賀県甲賀郡水口町。旧東海道の宿駅。「故人」は旧友。芭蕉と同じ伊賀上野出身の服部土芳(はっとりとほう。1657~1630)。この水口での芭蕉との再開の後、俳諧の道に専念する。伊賀上野の土芳の庵は「みのむしの音を聞にこよ草の庵」の句に基づき「みのむし庵」と呼ばれる。


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解説:左大臣光永



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