旅の句集
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和尚
おりゝにかはらぬ空の月かげも ちゞのながめは雲のまにゝ
月はやし梢は雨を持ながら 桃青
寺にねてまこと顔なる月見かな 同
雨に寝て竹起かへるつきみかな ソラ
月さびし堂の軒端の雨しづく 宗波
現代語訳
おりゝにかはらぬ空の月かげも ちゞのながめは雲のまにゝ
季節ごとに変わらない空の月の姿。しかしさまざまに見え方が変化する。それは、雲の形がさまざまに変化するからだ。
月はやし梢は雨を持ながら 桃青
雨あがりの雲はすごい勢いで動いており、それにつられて月が飛んでいくように見える。地上では木々の梢がまだ雨をふくんで、滴をしたたらせている。
寺にねてまこと顔なる月見かな 同
寺に寝て月見をすると、寺というおごそかな場所だからだろうか、月見をする人々の顔までどことなく厳粛に見える。
雨に寝て竹起かへるつきみかな ソラ
雨に打たれて寝ていた竹が、雨がやんだのでふたたび立ち上がってきた。同じく私たちも雨がやんだのでふたたび外に出て月見をすることよ。
月さびし堂の軒端の雨しづく 宗波
月がさびしく出ている。堂の軒端には雨の滴がしたたっている。
神 前
此松の実ばへせし代や神の秋 桃青
ぬぐはゞや石のおましの苔の露 宗波
膝折ルやかしこまり鳴鹿の声 ソラ
現代語訳
鹿島神宮の神前
此松の実ばへせし代や神の秋 桃青
この松が種から芽を出したはるかな昔もしのばれる、神前の秋の景色だよ。
ぬぐはゞや石のおましの苔の露 宗波
鹿島明神が降臨されたという要石。その石の上の苔に降りた露を、ぬぐおうよ。
膝折ルやかしこまり鳴鹿の声 ソラ
ここ鹿島神宮の境内では、鹿もおごそかさに膝を折っているのだろうか。鹿の声もどこか、かしこまっているように思える。
語句
◆実ばへ 種から芽が出ること。 ◆おまし 神の御座所。鹿島明神が降臨した要石。
田家
かりかけし田づらのつるや里の秋 桃青
夜田かりに我やとはれん里の月 宗波
賤の子やいねすりかけて月をみる 桃青
いもの葉や月待里の焼ばたけ タウセイ
現代語訳
田舎の家
かりかけし田づらのつるや里の秋 桃青
稲を刈りかけにしている田の面。そこに鶴の姿が見える、わびしい秋の里の景色よ。
夜田かりに我やとはれん里の月 宗波
忙しい農家では月の明るい晩には夜稲刈りをするが、私も稲刈りに雇われたいものだ。里の月がこうこうと照らす、こんな晩は。
賤の子やいねすりかけて月をみる 桃青
いやしい農家の子も、こんな晩には籾摺り臼の手を休めてふと月をみることだ。
いもの葉や月待里の焼ばたけ タウセイ
日照り続きで痩せた地に里芋の葉がなびいて、月の出を待っている様子だ。
語句
◆田家…田舎の家。 ◆かりかけし…稲を刈りかけにしている。 ◆夜田刈り…忙しい農家では月の明るい晩には夜に稲刈りをする。 ◆我やとはれん…「我雇はれん」。 ◆稲摺り…籾摺り。 ◆焼ばたけ…日照り続きで痩せた畑のことか。
野
もゝひきや一花摺の萩ごろも ソラ
はなの秋草に喰あく野馬哉 同
萩原や一よはやどせ山のいぬ 桃青
現代語訳
野原で
もゝひきや一花摺の萩ごろも ソラ
萩の原を分けて進んでいくと、ももひきに萩がこすりついて、まるで萩の摺り衣をまとっているような気分だ。
はなの秋草に喰あく野馬哉 同
秋草の花が咲き乱れる野で、放し飼いの馬が草を食べ飽きていることよ。
萩原や一よはやどせ山のいぬ 桃青
萩は「臥猪の床」といって歌にも詠まれる優雅な花なので、萩よ、野蛮な山犬にも一夜の宿を貸してあげてくれ。
語句
◆一花摺…萩や露草の花を一度衣にこすり付けて染色すること。 ◆萩原や…萩は歌語に「臥猪(ふすい)の床」といわれる優雅な植物。
帰路自準に宿す
塒(ねぐら)せよわらほす宿の友すゞめ 主人
あきをこめたるくねの指杉 客
月見んと汐引のぼる船とめて ソラ
貞享丁卯仲秋末五日
現代語訳
帰り道、自準邸に泊まる。
塒(ねぐら)せよわらほす宿の友すゞめ 主人
友すずめよ、この干し藁の中にも巣をつくって休んだらどうだい。
あきをこめたるくねの指杉 客
秋の成長を期待して春のうちに杉の挿し木を垣根にさしていたのが、見事に成長しましたね。
月見んと汐引のぼる船とめて ソラ
利根川には川沿いの陸地から船をひっぱる「引き船」があるが、その「引き船」に乗っている人々もつきを見ようと船を止めている。もう海に近いので川に海の汐が流れ込んでいる。
貞享四年(1687年)八月二十五日
語句
◆自準…元大垣藩士本間道悦。名は弥三郎。医者となり江戸に住んでいた。 ◆あきをこめたる…「秋をこめる」は秋に期待して(春のうちに植えた)。「くね」は「くね垣」で境の垣根。「指杉」は挿し木した杉。主人の句を受けて挨拶としての脇句。 ◆汐引きのぼる船…「引船」。利根川には、川岸から縄で船をひっぱって川をのぼる風習があった。これを